どうしたことだろう。 夜のうちになにかあったのか、それとも私の目がおかしくなったのか。視界に入る全てのものの輪郭がいつもと違う。
 なんと表現したらいいのか・・・。
 
 言うなれば、全部がふわふわなのだ。
 はじめはいぶかしんでいたけれど、スリッパに足を入れたあたりでもう私の気分は変わっている。気持ちいい。立ち上がる。床もふわふわする。面白い!
 私はくすくす笑いながらキッチンに向かう。いつもは無機質な光を放つ冷蔵庫も、浮き上がりそうなファンシー感。
 
 あれ? 少しだけ手を添えれば実際に浮かんでしまってる。楽しい!
 少しだけ苦労しながら冷蔵庫の扉を開け、ベーコンと卵を取り出す。試しに卵を床に落としてみたけれど、もちろんふわりとバウンドして手元に戻ってきた。床も卵も、ふわふわなんだもの。
 ガスのスイッチを入れる。つまみは柔らかいけれど、火はちゃんとついた。ゆらゆら揺れる炎も、踊っているみたいだ。
 フライパン!フライパンは?これもまた幼稚園にも上がらない子供が遊ぶままごと道具のような感触。それを、現実味のない火にかけるのだけれど、どういう具合か、ちゃんと目玉焼きが出来上がるのが不思議。
 アニメのようにまぁるい紅茶の湯気を向こうに吹きながらワンダーランドの朝食。私の心は、まあるく、透明に、どんどん軽くなっていく。そして突然炭酸飲料の細かい泡のように沸き立ってきて、私は思わずいすから立ち上がる。こんなに幸せな気持ち、座ってなんていられない!
 
 さて、何をしようか。
 いやまずは落ち着いて。身支度をしなくてはね。

 東京女子大学日本文学科卒業、夜中のお菓子研究家